大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和48年(ワ)2335号 判決

甲事件原告

三津谷幸雄

乙事件原告

沢口正敏

丙事件原告・甲・乙事件被告

福島熔材株式会社

甲・乙事件被告

白川清史

丙事件被告

戸田建設株式会社

ほか二名

主文

一  被告福島熔材株式会社、同白川清史は各自、原告三津谷幸雄に対し金一〇〇八万一一八三円及びこれに対する昭和四八年四月八日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員、原告沢口正敏に対し金一四六万四六〇五円及びこれに対する昭和四九年一月一七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告三津谷幸雄、原告沢口正敏のその余の各請求、被告福島熔材株式会社の請求はいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告三津谷幸雄と被告福島熔材株式会社、同白川清史との間に生じた分は、三分し、その二を同原告の負担、その一を同被告らの連帯負担、原告沢口正敏と被告福島熔材株式会社、同白川清史との間に生じた分は一〇分し、その九を同原告の負担、その一を同被告らの連帯負担、被告福島熔材株式会社と被告戸田建設株式会社、被告戸田道路株式会社、被告株式会社林土建との間に生じた分は被告福島熔材株式会社の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(甲、乙事件)

一  原告三津谷幸雄、同沢口正敏の請求の趣旨

1  被告福島熔材株式会社、同白川清史は各自、原告三津谷幸雄に対し金三八二四万一〇九六円及び右金員に対する昭和四八年四月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員、原告沢口正敏に対し金一三〇一万七二九七円及び右金員に対する昭和四九年一月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告福島熔材株式会社、同白川清史の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告福島熔材株式会社、同白川清史の答弁

1  原告三津谷幸雄、同沢口正敏の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告三津谷幸雄、同沢口正敏の負担とする。

(丙事件)

一  被告福島熔材株式会社の請求の趣旨

1  被告戸田建設株式会社、同戸田道路株式会社、同株式会社林土建は各自、被告福島熔材株式会社に対し金一〇〇万五〇八四円及び右金員に対する昭和四九年五月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告戸田建設株式会社、同戸田道路株式会社、同株式会社林土建の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告戸田建設株式会社、同戸田道路株式会社、同株式会社林土建の答弁

1  被告福島熔材株式会社の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告福島熔材株式会社の負担とする。

第二当事者の主張

(甲、乙事件)

一  請求の原因

1  (事故の発生)

原告三津谷幸雄(以下原告三津谷という。)、同沢口正敏(以下原告沢口という。)は、昭和四六年一二月一四日午後四時二〇分ころ、埼玉県岩槻市大字谷下二六四番地先国道一二二号線バイパス路上において、下り車線の左側端に小型ダンプカーを停車させ、その手前で道路の舗装工事に従事していたところ、被告白川清史(以下被告白川という。)の運転にかかる小型貨物自動車(練馬四四さ四九七八号、以下本件事故車という。)に衝突され、原告三津谷は右大腿部挫断、骨盤骨折、上前腕骨骨折、急性腎不全の傷害を、同沢口は左大腿骨骨折、開放性右膝脛腓骨骨折の傷害をそれぞれ負つた。

2  (責任原因)

(一) 被告福島熔材株式会社(以下被告福島熔材という。)は、本件事故車を自己の業務に使用し、本件事故当時もその従業員である被告白川に右業務のため運転させていたものであるから、被告福島熔材は本件事故車を自己のため運行の用に供していたものとして、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という。)三条により、原告三津谷、同沢口の被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告白川は、本件事故車を運転するに際し、前方を注視して運転すべきであるのにもかかわらずこれを怠り、停車中の車両及び右原告らの発見が遅れたため本件事故が発生したものであるから、同被告は民法七〇九条により右原告らの被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

3  (損害)

(一) 原告三津谷

(1) 後遺症による逸失利益

原告三津谷は、本件事故による前記傷害のため右大腿部を切断し、同障害は自賠法施行令別表四級に該当し、その労働能力は生涯を通じて九二パーセントを喪失したものと考えるのが相当であるところ、同原告は本件事故当時三二歳で、本件事故に遭遇しなければ六七歳に至るまでの三五年間稼働し、毎年昭和五〇年度賃金センサス第一巻第一表中産業計、企業規模計、男子労働者学歴計全年齢平均給与額欄記載の金額(金二三七万八〇〇円)と同額の収入を得られたはずであるから、これらの数値を基礎とし、右の間の年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除して、同原告の労働能力喪失による逸失利益の現価を求めると、その額は金三五七一万四一三九円となる。

(2) 慰藉料

本件事故は、被告白川の一方的な過失により惹起されたものであり、原告三津谷の症状が固定するまでに約一〇か月を要し、その間二三七日間の入院治療を余儀なくされたうえ、前記のように右大腿部を切断したため今後は一家の支柱として事故前のように、舗装工及び運転手として働くことができなくなつた等、同原告の受けた精神的苦痛は筆舌に尽くすことができず、右苦痛に対する慰藉料は、入院中の分が金一三五万円、右大腿部切断の後遺障害に対する分が金五五〇万円合計金六八五万円が相当である。

(3) 弁護士費用

原告三津谷は、本件訴訟の提起、追行を同原告訴訟代理人に委任し、同代理人に報酬として認容額の約一割を支払う旨約したが、右のうち金一〇〇万円を被告らに請求する。

(4) 損害の填補

原告三津谷は、被告福島熔材から見舞金として金三万円、休業補償の内金として金四〇万円、自動車損害賠償責任保険から後遺症補償金として金三四三万円、労働者災害補償保険法に基づく休業補償金として金五六万三〇四三円、合計金四四二万三〇四三円の支払を受けた。

よつて、原告三津谷の未だ填補にされない損害額は金三九一四万一〇九六円となるが、本訴において右のうち金三八二四万一〇九六円の支払を求める。

(二) 原告沢口

(1) 後遺症による逸失利益

原告沢口は、本件事故による前記傷害のため右膝関節の機能障害及び左大腿骨の変形等の後遺症が残り、その結果その労働能力は生涯を通じて二七パーセントを喪失したものと考えるのが相当であるところ、同原告は本件事故当時二五歳で、本件事故に遭遇しなければ六七歳に至るまでの四二年間稼働し、前記原告三津谷と同程度の収入を得られたはずであるから、これらの数値を基礎とし、右の間の年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除して、同原告の労働能力喪失による逸失利益の現価を求めると、その額は金一一一五万二八六九円となる。

(2) 慰藉料

本件事故は被告白川の一方的な過失により惹起されたものであり、原告沢口の症状が固定するまでに約一年四か月を要し、その間二〇四日間の入院治療を余儀なくされたうえ、前記後遺障害が残つたため今後は一家の支柱として本件事故前のように舗装工等季労働者として働くことができなくなつた等、同原告の受けた精神的苦痛は筆舌に尽くすことができず、右苦痛に対する慰藉料は、入院中の分が金一六一万五〇〇〇円、四〇日間の通院中の分が金二〇万円、後遺障害に対する分が金一六一万円合計金三四二万五〇〇〇円が相当である。

(3) 弁護士費用

原告沢口は、本件訴訟の提起、追行を同原告訴訟代理人に委任し、同代理人に報酬として認容額の一割を支払う旨約したが、右のうち金五〇万円を被告らに請求する。

(4) 損害の填補

原告沢口は、被告福島熔材から見舞金として金三万円、休業補償の内金として金四〇万円、自動車損害賠償責任保険から後遺症補償金として金五二万円、労働者災害補償保険法にもとづく休業補償金として金九〇万五七二円、合計金一八五万五七二円の支払を受けた。

よつて、未だ填補されない原告沢口の損害額は金一三二二万七二九七円となるところ、本訴において右のうち金一三〇一万七二九七円の支払を求める。

よつて、被告福島熔材、同白川それぞれに対し、原告三津谷は金三八二四万一〇九六円及び右金員に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四八年四月八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告沢口は金一三〇一万七二九七円及び右金員に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四九年一月一七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、原告らが下り車線の左側端に小型ダンプカーを停車させていたとの点は否認し、原告三津谷が本件事故により急性腎不全の傷害を負つたことは知らない、その余の事実は認める。原告らが小型ダンプカーを停車させていた位置は道路中央寄りの左側である。

2  同2のうち(一)の事実は認めるが、(二)の主張は争う。本件事故時において原告らは交通量の多い幅員六メートルの国道上で道路修理工事に従事していたのであるから、防護柵、予告看板を設置するなどして事故の発生を未然に防止すべきであつたにもかかわらず、右のような事故防止措置をせずに漫然と工事を実施していたために本件事故が発生したものであつて、本件事故は原告らの右過失に起因するもので、被告白川に過失はない。

3  同3のうち(一)(1)の事実中、原告三津谷が本件交通事故により、同原告主張のような後遺症が残存し、その障害の程度が主張のように四級に該当し、四級の労働能力喪失の割合が九二パーセントとされてることは認めるが、その余の主張は争う。

原告三津谷は、現在被告株式会社林土建(以下被告林土建という。)に勤務して伝票整理等の仕事に従事し、毎月金一〇万円、年間金一二〇万円の給与を受けている外、年間金一九一万二三一二円(月平均金一五万九三五九円)の労災保険年金の支給を受けており、右収入を併せると年間収入は金三一一万二三一二円となり、原告が逸失利益の基礎としている昭和五〇年度賃金センサスによる年間収入金二三七万八〇〇円よりはるかに超過しているから、前記後遺症による収入の減少は全くない。

同(2)、(3)の主張は不知、(4)の事実は認める。

同(二)(1)の事実は争う。

原告沢口の後遺症は自賠法施行令別表一二級に相当するものであるから、その労働能力の喪失割合は一四パーセントとみるべきである。また同原告は現在、訴外仙台観光自動車株式会社に運転手として勤務し、他の運転手と同様の労働条件のもとで稼働し、月額平均金一七万二五九四円、年間金二〇七万一一二八円の収入があり、賞与額を加算すれば、その収入額は原告主張の昭和五一年度賃金センサスによる年間収入額金二三七万八〇〇円と大差がないから、労働能力の喪失による収入はないものとみるべきである。

同(2)、(3)の主張は不知、(4)の事実は認める。

三  抗弁

1  (過失相殺)

本件事故の発生については、工事施行の責任者である被告戸田建設株式会社(以下被告戸田建設という。)、同戸田道路株式会社(以下被告戸田道路という。)、同林土建において、工事施行に際し、道路交通法第七七条一号による道路使用許可条件にしたがつて作業場所に警戒標識、バリケード等を設置するなど保安対策を講ずる義務があるのに右対策を講ぜず危険な状況で工事を実施せしめ、原告らにおいても、前記のような道路状況からして交通事故の発生が予想されるのにもかかわらず、企業責任者に対して右対策を講ずるよう何らの要請もせず、危険を覚悟して作業を行なつた過失があり、本件損害賠償額の算定にあたり右過失を三割程度としてこれを斟酌すべきである。

2  (損害の填補)

(一) 原告三津谷

(1) 被告福島熔材は、原告三津谷に対して、同原告が主張する金四三万円の外に、治療費として金一〇七万四四七〇円(病院入院費金八九万二九五〇円、付添費金五万二〇二〇円、大腿義足費金一二万円、コルセツト費金九五〇〇円)、雑費(診断書)として金一〇〇〇円、合計金金一〇七万五四七〇円を支払つたので、同原告の損害額からこれを控除すべきである。

(2) 原告三津谷は、昭和五三年六月二〇日までに、労災保険年金として金五四七万六〇〇〇円の支払を受けている外、今後も年間金一九一万二三一二円ずつ右年金の支払われることが確定しており、就労可能年齢である六七歳まで今後二九年間は右金額が支給されるのであるから、右の額から年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除した右年金の現在価額金二八九五万二四〇三円を原告三津谷の損害額から控除すべきである。

(二) 原告沢口

被告福島熔材は、原告沢口に対し、同原告が主張する金四三万円の外に、治療費として金七三万八六七〇円(病院入院費金六九万九四〇〇円、付添費金三万九二七〇円)、雑費(診断書)として金一〇〇〇円、合計金七三万九六七〇円を支払つたので、原告沢口の損害額からこれを控除すべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の主張は争う。被告白川は、本件事故発生以前に本件事故現場を何度も車を運転して通行し、本件事故現場附近が数キロメートルにわたつて道路工事の行われていた区間であることを充分知つていたものであるから、右工事区間内を通行するときには一般の道路を通行するときよりも一層注意し、減速または前方の安全確認を徹底する等して危険の防止につとめる義務があるにもかかわらず、漫然と時速七〇キロメートルの速度で進行し、しかも時速七〇キロメートルの場合の制動距離からして少なくとも五〇メートル前方の安全を確認することが必要であるのに、事故直前僅か数メートル前方しか安全確認のできない進行方向左側の車線に進路変更をしたため、制動距離内にいた原告らを発見できず、本件事故を発生させたものである。

右の如く、制動距離内の安全確認すらしないまま自動車を運転することは、いわば「めくら運転」であり、たとえ誘導員の配置、防護柵の設置をしても結果の防止には役立たず、本件事故は、ひとえに被告白川の「めくら運転」に起因するものである。

2  同2のうち(一)(1)の事実は認めるが、被告福島熔材から支払を受けた金一〇七万五四七〇円は治療費及び診断書費用として支払を受けたものであり、原告三津谷は本訴において右治療費等を請求していないから、原告三津谷の請求金額から控除すべきでない。(2)の事実中被告ら主張の額を既に受領したことは認めるが、将来分を控除すべきであるとの主張は争う。なお、その後原告三津谷は、昭和五三年八月に労災保険年金として金四七万八〇七七円の支払を受けており、右年金の既受領総額は金五九五万四八七八円である。

同(二)の事実は認めるが、被告福島熔材から支払を受けた金七三万九六七〇円は治療費及び診断書費用として支払を受けたものであり、原告沢口は本訴において右治療費等を請求していないから、原告沢口の請求金額から控除すべきではない。

(丙事件)

一  請求原因

1  (事故の発生)

甲乙事件の請求原因一、1記載の事故が発生し、右事故により原告三津谷は右大腿部挫断、骨盤骨折、左前腕骨骨折等の傷害を、原告沢口は左大腿骨骨折、開放性右膝脛腓骨骨折の傷害を負つた。

2  責任

(一) 本件事故は被告福島熔材の従業員である被告白川が被告福島熔材所有の本件事故車を運転しその業務の執行中に発生したものであるから、同被告において本件事故による原告らの損害を賠償すべき義務があるが、他方、被告戸田建設は訴外日本道路公団(以下訴外公団という。)から本件沈下盤埋戻し工事を含む東北高速道路岩槻南インターチエンジ工事を請負つたもの、被告戸田道路は右工事を親会社である被告戸田建設から請負つたもの、被告林土建は被告戸田道路から採石、アスフアルト等の材料の提供を受ける約のもとに工事の一部を請負い、自己の従業員である原告三津谷、同沢口らを使用して右工事を実施していたものであつて、被告戸田建設、同戸田道路、同林土建にも本件事故の発生についてそれぞれ後記のような過失があり、本件事故の発生について損害賠償責任があるものというべきである。

(二) 被告戸田建設は、前記のとおり本件工事の元請人であり、交通頻繁な道路上での工事であるから訴外公団との請負契約上の義務として、また、道路交通法七七条一号による道路使用の許可条件に従つて、工事現場に誘導員を配置し、もしくは警戒標識ならびにバリケード等を設置して保安措置を講じ、通行車両による事故の発生を未然に防止すべき義務があるのにもかかわらず、防護柵等の長期固定的な施設を設置したのみで、バリケード等の短期移動的な施設については戸田道路に一任し、本件沈下盤埋戻し工事施行に際しても、現地に駐在していた被告戸田建設の所長、工事主任等の同被告の従業員において下請人の被告戸田道路に対し何ら保安施設の設置指示を与えることなく、工事を実施せしめ、そのため本件事故が発生したものである。

(三) 被告戸田道路は、本件工事について道路交通法七七条一号の請負人に該当するので、被告戸田建設と同様自らの責任において道路使用の許可条件に従つて保安施設を設置するべき義務があるのにもかかわらず、その現地駐在者である訴外田中貞夫において、被告林土建の現場責任者である原告三津谷に対し本件沈下盤埋戻し工事の実施を申し入れるにあたり、右訴外田中はもとより現地駐在所長の訴外小泉定男も保安施設の設置について何らの指示も与えなかつたもので、右も本件事故の原因を成している。

(四) 被告林土建は、本件沈下盤埋戻し工事について道路交通法七七条一号の「工事若しくは作業をしようとする者」又は「作業の請負人に該当するので、道路使用の許可条件に従い、自らの責任において前記のような保安措置を講ずべき義務があり、特に同被告の現場責任者である原告三津谷は、右工事を実施する際、既に時刻は午後四時二〇分ころで薄暗く、しかも交通が頻繁で、交通事故の発生が予見可能であつたのであるから、被告戸田建設、同戸田道路に対しバリケード、警戒標識の設置、誘導員の配置等の保安措置を講ずるよう要請すべきであつたのに拘らず、その要請をせず、また自らも設置することなく、漫然と工事を実施し、その結果本件事故を発生せしめたものである。

以上のとおり、被告戸田建設、同戸田道路、同林土建はいずれも民法七〇九条もしくは七一五条により、同福島熔材とともに本件事故による原告らの損害を賠償すべき義務がある。

3  (被告福島熔材の賠償及び求債権の取得)

(一) 被告福島熔材は原告三津谷に対し、本件事故により同原告が被つた損害の賠償として金一五〇万五四七〇円を、原告沢口に対して同じく金一一六万九六七〇円をそれぞれ支払つたが、右各金員のうち自賠責保険から各金五〇万円の支払を受けたので、結局、同被告において合計金一六七万五一四〇円を出損した。

(二) ところで、本件事故は前記のとおり被告福島熔材の従業員である同白川の過失と、同戸田建設、同戸田道路、同林土建の過失とが競合したために発生したものであるところ、本件事故前、被告白川は先行車と約三〇メートルの車間距離を保つて進行し、本件事故の原因となつた追い越し直前の際も約一〇メートルの車間距離を保つていたもので、そのほか本件事故現場は駐車禁止となつているうえ、前記のとおり工事中である旨の標示、標識、誘導員の配置等保安対策が講じられていなかつたのであるから、かかる道路上で工事をしていることを予見することは不可能に近く、また、本件事故現場附近が追越許容区間で、かつ、片側専用道路のため対向車両との衝突の危険が全くないこと等を考慮すると、本件事故における過失割合は、被告福島熔材四、被告戸田建設、同戸田道路、同林土建が六とみるのが相当であるから、被告福島熔材が原告らに対し出捐した前記金額の六割である金一〇〇万五〇八四円は被告戸田建設、同戸田道路、同林土建においてそれぞれ負担すべきものである。

よつて、被告福島熔材は、被告戸田建設、同戸田道路、同林土建それぞれに対し、共同不法行為者間の求償権に基づいて金一〇〇万一八〇二円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四九年五月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告戸田建設、同戸田道路の認否

1  請求原因1の事実中、原告三津谷、同沢口の傷害の内容は不知、その余の事実は認める。

2  同2(一)のうち被告戸田建設、同戸田道路に損害賠償責任があるとの主張は争うが、その余の事実は認める。同(二)、(三)の事実及び主張は否認もしくは争う。

被告福島熔材は、被告戸田建設、同戸田道路が道路交通法七七条一号による道路使用許可条件に定める保安措置を講じなかつたと主張するが、そのような許可条件は存在しない。

本件事故は、後記のとおり被告白川の一方的過失によるもので、被告林土建及びその従業員にとつて不可避かつ予見不能の事故である。仮に、バリケード、警戒標識を設置し、又は誘導員を配置すべきであつたとしても、それは、本件工事が被告林土建の請負工事の一部であること、範囲も狭く、短時間の少人数で行なう作業であつたこと、常時二車線を確保するため交通止めにすることができず、またその必要もなかつたことからして、被告林土建の判断と責任において保安措置を講ずべきことである。被告戸田建設は本件高速道路工事区間の要所に、工事中であることを示す警戒標識を設置した外、同被告は被告戸田道路に対し、被告戸田道路は被告林土建に対しそれぞれ請負工事の注文主として交通事故防止には万全を期するよう指図していたのであり過失はない。

本件事故は左記のとおり被告福島熔材の運転者である被告白川の一方的過失によるものである。即ち、

(一) 本件道路には工事区間の起点、終点及びその間の要所には工事中である旨の警戒標識が設置され、被告白川自身もこれまで週一回位同所を通行して工事中であることを十分了知していた。

また、事故当時、同所を通過する車両もすべて第二通行帯を減速徐行しており、被告白川としても本件事故現場の手前約一〇〇メートルのところで、その先行車が減速したのを知つたのであるから、運転者としては第一通行帯に道路工事等の障害があることは容易に予見できたはずである。

(二) また、本件事故車の先行車は荷物を満載した大型トラツクで、被告白川からは先行車の前方は全く見とおせない状態であつたにもかかわらず、同被告は無謀にも時速八〇キロメートルという高速で、しかも法規で禁じられている左側追い越しを図つて本件事故を惹起したものであり、被告白川の一方的過失により本件事故は生じたものである。

また、本件のような現場で工事をする者は、通行車両が法規で定めた安全な方法で走行することを信頼して、それに応じた保安措置を講ずれば足りるものである。

3  同3(一)の事実は知らない。

4  同3(二)のうち本件事故車が主張のような車間距離をとつて走行していたことは不知、その余の主張は争う。共同不法行為における各行為者の負担する賠償義務は相互にいわゆる不真正連帯の関係にあり、当該負担部分を超える弁済がなされてはじめて共同の免責として求償権が発生するものと解すべきである。

三  請求原因に対する被告林土建の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)のうち被告林土建に損害賠償義務があるとの主張は争うが、その余の事実は認める。同(四)の主張は否認もしくは争う。

本件交通事故の発生した国道一二二号線にかかる東北高速道路岩槻南工事は、被告戸田建設が訴外藤田工業株式会社(以下訴外藤田工業という。)と共同で、訴外公団から、工期昭和四五年八月九日から同四七年一月三〇日までで請負つていたものであるが、既設道路の使用については、同公団において警察の許可をうけ、工事区間の起点と終点に同公団と被告戸田建設の連名で標示板を設けた外、工事区間の随所に「工事中危険」「二〇〇メートル先工事中」「徐行」等の標示板を設けており、被告林土建が請負つた工事区間についても、事前に被告戸田建設ないし被告戸田道路においてバリケード、鉄パイプで囲つた外、毎日被告戸田道路の担当者と保安について打合わせをし、その指示に従つて、十分な交通に対する安全対策を講じてあつたものである。

のみならず、本件沈下盤埋戻し工事は被告林土建の請負つた工事には含まれていなかつたもので、原告三津谷、同沢口が右工事をするに至つたのは、本件事故当日の午後四時ころ、原告三津谷が被告戸田道路の従業員である訴外田中貞夫から右工事を同日中に行なうよう依頼され、原告三津谷としても、二、三人で行なえば三〇分位で終了する軽作業であることから、被告林土建本社に連絡することなく、これを引受け、しかも右作業の実施に際しては、右作業が短時間に作業場所を移動して行うものであり、かつ、右作業場所が工事区間内であることは前記のとおり明らかであること、本件事故現場附近は見とおしの良い場所でもあることから、通行止め、防護柵設置の措置はとらなかつたものの、近くに作業用のダンプカーを停車させ、尾燈、駐車燈をつけさせるとともに、原告沢口に車の誘導をするよう指示して作業を実施中であつたもので、被告白川のような無謀な運転により衝突してくる車のあることは予想もできなかつた。

以上のとおり、本件沈下盤埋戻し作業は被告林土建に関係のない工事であり、また同被告に過失はなかつたものである。

3  同3(一)の事実は認めるが、同(二)の主張は争う。

本件事故は、被告福島熔材の従業員である被告白川の重大かつ一方的過失によるものである。即ち、被告白川は本件事故前、本件事故発生場所を何度も自動車を運転して通行し、その附近が道路工事の行なわれていた区間であることは十分知つていたのであり、右工事区間を通行するに際しては、一般の道路を通行するときよりも一層注意し、減速または前方の安全確認を徹底する等して危険の防止につとめるべきであつた。しかるに、同被告は、時速七〇キロメートル以上の速度で、しかも前方の視野を妨げる大型貨物自動車に五ないし六メートルの車間距離しかおかずに追随して進行したため、右大型車の陰で変更すべき進路の見とおしがきかなかつたにもかかわらず、減速した先行車の左側から追い越そうとして左側車線に進路を変更したため、制動距離内にいた被害者らを発見できず、本件事故を発生せしめたものである。このように本件事故は被告白川の「めくら運転」ともいうべき重大な過失により生じたものである。

また、仮に被告林土建に求償に応ずべき義務があるとしても、被告福島熔材としては、自己の負担部分を超えて弁済しなければ求償権を行使し得ないものである。

第三証拠〔略〕

理由

(甲、乙事件)

一  原告三津谷、同沢口が、昭和四六年一二月一四日午後四時二〇分ころ、埼玉県岩槻市大字谷下二六四番地先国道一二二号線バイパス路上において、被告白川の運転する本件事故車に衝突され、それぞれ傷害を受けた(ただし腎不全の点は除く)ことは各当事者間に争いがない。

二  ところで、原告らは、本件事故は被告白川の前方不注視の過失により惹起された旨主張するのに対し、被告白川においてこれを争つているので、この点について判断するに、各当事者間に成立に争いのない乙第三号証、第一一、第一二号証、第一八号証、本件事故当時、本件事故現場を撮影した写真であることについて争いのない乙第四号証によると、本件国道は川口市方面から岩槻市方面に向かう通行のみを可とする一方通行の道路であり、二車線に区分されていること、被告白川は、本件事故車を運転し、本件道路の第二車線(進行方向右側車線)上を本件事故現場の手前七、八〇〇メートル手前から、荷物を満載した一一トン大型貨物自動車の二、三〇メートル後方を時速約七〇キロメートルで追従進行していたが、そのうち右先行車が減速し、同車との車両距離が縮まつたため、本件事故現場の手前約二六メートルの地点で同車を左側から追越すべく、時速約八〇キロメートルに加速して左側の第一車線側へハンドルを切つたこと、その際、先行車との車間距離は五ないし六メートルで、しかも先行車は前記のとおり荷物を満載した大型貨物自動車であつたため、被告白川としては第一車線の前方を見通すことができないままハンドルを左へ切り、その直後に、第一車線内の道路中央寄りに停車しているダンプカーを発見し直ちに急制動の措置をとつたが間に合わず、右ダンプカーの手前で沈下盤埋戻し作業を行なつていた原告らに本件事故車を衝突させたことが認められ、以上の事実によると、被告白川は、先行車を追越すため車線を変更するには予めその前方の安全を確認する義務があるのに、これを怠つた過失があり、これにより本件事故を惹起させたものというべきであり、そうだとするならば、同被告白川が主張する、本件国道上に道路工事標識があつたか否かの点に関係なく、前方注視義務違反の過失があつたものとして民法七〇九条に基づき原告らの被つた後記損害を賠償すべき責任があるものといわなければならない。

三  次に、被告福島熔材が本件事故車を所有し、自己のために運行の用に供していたことは、原告らと被告福島熔材との間に争いがない。従つて、被告福島熔材は自動車損害賠償保障法三条に基づき原告らの被つた後記損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

四  そこで、原告らの被つた損害について判断する。

1  原告三津谷

(一)  逸失利益

成立に争いのない甲第二号証の一ないし三、乙第六号証、第三二、第三三号証、原告三津谷幸雄本人尋問の結果を総合すると、原告三津谷は本件事故により右大腿挫断、骨盤骨折、左前腕骨骨折、急性腎不全の各傷害を受け(急性腎不全を除く各受傷の事実は当事者間において争いがない。)、本件事故発生の日である昭和四六年一二月一四日から同四七年八月六日まで埼玉県岩槻市本町二丁目一〇番五号所在の医療法人丸山病院古川外科において入院治療を受けたが、結局右大腿を上部から三分の一の部位において切断した外、右股関節運動障害、仙骨骨折による腰部下肢痛の各後遺障害を残して、昭和四七年一〇月五日その症状が固定したこと、その後同原告は右足に義肢を着装しているが杖を使用しても歩行は約二〇〇メートルが限度である外、常時腰部下肢に痛みがあり、特に梅雨時が激しく、従前行なつていた大型特殊自動車の運転は不能になつたことがそれぞれ認められ、また前掲各証拠及び成立に争いのない甲第三号証ならびに原告三津谷幸雄本人尋問の結果を総合すると、同原告は昭和四一年四月から被告林土建に勤務し、大型特殊自動車の運転手、舗装工、工事現場責任者として稼働していたが、本件事故直前の昭和四六年九月から一一月までの間被告林土建から本給と付加給を合わせて、一か月平均金一二万三四五八円の給与の支給を受けていたこと、そして本件事故後昭和四八年一月から復職したが、前記障害のため伝票整理等の仕事に従事し、当初は日給として金二〇〇〇円の支給を受け、その後他の社員の給与が上昇するのに対応して給与が上昇し、昭和五一年七月からは日給が金五七〇〇円となり、月に少なくとも二〇日間は勤務し、月に約一二万円程度の給与を支給されているが、ボーナス等の特別給与は支給されず、また、右原告において今後共右被告に勤務する意思はあるものの正式な社員としては扱われる見込はないことがそれぞれ認められ、その外同原告の大腿部切断の障害は労働基準法施行規則別表、労働災害身体障害等級表では第四級該当とされていること、また右認定にかかる同原告の本件事故前の収入額は昭和四六年度賃金センサス産業計、企業規模計、男子労働者全年齢平均給与額と同程度のものであつたが、本件事故後の収入額は昭和五一年度賃金センサス産業計、企業規模計、男子労働者全年齢平均給与額の約六割程度にとどまつていること、さらに事故後復職したというものの前記認定のとおり身分関係が必ずしも安定しておらず、本件事故後大型特殊自動車の運転もできなくなり、転職するについても困難を伴うであろうことが容易に推認し得ることなどを併せ考えると、同原告は右後遺障害が固定した昭和四七年一〇月五日以降稼働可能な六七歳に達するまでの間、その収入が五割減少するものと推認するのが相当であり、昭和四七年から同四九年までは当裁判所に顕著な右各年度の賃金センサス(産業計、企業規模計、学歴計、全年齢平均給与額)により、昭和五〇年以降、原告三津谷が六七歳に達するまでは同年度の賃金センサス(前同)によつて右減収入額を算出し、右の額から年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除すると、右後遺障害固定時である昭和四七年一〇月五日現在の原告三津谷の後遺障害による得べかりし利益喪失による損害は別紙第一計算書記載のとおり金一七九〇万三九一一円となる。

(二)  慰藉料

原告三津谷が本件事故によつて傷害を受け、約八か月の入院治療を受けたが、結局右大腿部切断等の後遺症が残つたことは前示のとおりで、同原告が右によつて精神的苦痛を受けたことは容易に推認されるところであり、これが慰藉料は、事故の態様、受傷及び後遺症の程度等諸般の事情を斟酌するならば、入院に対する分が金一二〇万円、後遺障害に対する分が金四〇〇万円、合計金五二〇万円が相当である。

2  原告沢口

(一)  逸失利益

成立に争いのない乙第四六号証、原告沢口正敏本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六号証、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる甲第五号証の一、原告沢口正敏本人尋問の結果を総合すると、原告沢口は本件事故により左大腿骨骨折、開放性右膝脛腓骨骨折の各傷害を受け(右事実は当事者間に争いがない。)、本件事故発生の日である昭和四六年一二月一四日から同四七年七月五日まで医療法人丸山病院古川外科に入院して治療を受け、その後昭和四七年七月一〇日から同年一一月一〇日まで宮城県玉造郡鳴子町字末沢一所在の国立鳴子病院に入院して機能回復訓練を受け、その後右病院に昭和四八年三月一九日から同年四月二日まで右大腿部に装着した金具をはずす手術のために入院し、更に、昭和四七年七月七日から昭和四八年四月二六日までの間、右国立鳴子病院に通院して治療を受けたが、右昭和四八年四月二六日両膝関節拘縮、右腓骨神経支配野のしびれ感の各後遺障害を残して症状が固定し、そのため右膝の屈曲に困難を伴うようになり正座の姿勢がとれなくなつたことがそれぞれ認められ、前掲各証拠の外、成立に争いのない甲第九号証原告沢口本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七号証を総合すると、原告沢口は本件事故当時二五歳で、もともと肩書住所で農業を営んでいたが、昭和四四年ころから毎年農閑期には被告林土建に季節工として、大型特殊自動車の運転及び土工の業務に従事し、昭和四四年は八〇日間稼働して合計金二二万一六一〇円、昭和四五年は一七三日間稼働して合計金六一万九三九五円、昭和四六年は一四四日間稼働して金五五万四五四円の給与をそれぞれ得ていたこと、本件事故後は被告林土建に昭和四八年暮ころから昭和五一年三月末まで稼働し、その後同年六月初めころからは仙台市六丁目字箱堤三番地所在の仙台観光自動車株式会社にタクシー運転手として勤務し、二、三か月の見習期間を経たのちは他の運転手と同様の勤務条件で稼働し、他の運転手と同程度の収入を得ていることがそれぞれ認められ、以上認定の各事実を総合考慮するならば、原告沢口の右後遺障害による収入の減少は、右後遺障害固定後である昭和四八年五月一日から同年一二月末日までは二割、昭和四九年一月一日から昭和五一年五月末日までは一割、同年六月一日から昭和五三年五月末日までは五分とみるのが相当であるから、昭和四八年及び同四九年は当裁判所に顕著な各年度の賃金センセス(産業計、企業規模計、学歴計、全年齢平均給与額)、昭和五〇年以降は同年度の賃金センサス(前同)を基礎に、右割合による減収額を算出し、同額から年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除して、右後遺障害固定時である昭和四八年四月二六日現在の原告沢口の後遺障害による得べかりし利益喪失による損害の症状固定時である昭和四八年四月二六日現在の現価を求めると、別紙第二計算書記載のとおり金八六万五一七七円となる。

(六) 慰藉料

原告沢口が本件事故によつて傷害を受け、入・通院治療を受けたが後遺症が残つたことは前示のとおりであり、同原告が右により精神的苦痛を受けたことは容易に推認されるところであるが、これが慰藉料は、事故の態様、受傷及び後遺症の程度等諸般の事情を斟酌するならば、入院に対する分が金一一〇万円、通院に対する分が金二〇万円、後遺症に対する分が金八五万円、以上合計金二一五万円が相当である。

五  そこで、過失相殺の抗弁について判断する。

前掲乙第三、第四号証、当事者間に成立に争いのない乙第五号証、第九ないし第一二号証、第一四ないし第一六号証、第四九号証の一ないし四(原本の存在とも)、被告戸田建設、同戸田道路主張のような写真であることについて、争いのない丙第六号証の一ないし一五、証人小泉定男の証言により真正に成立したものと認められる丙第二ないし第五号証、証人山田昌作の証言により真正に成立したものと認められる丙第一号証、原告三津谷幸雄本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる丁第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる丁第一号証、第三号証、証人山田昌作、同小泉定男、同鈴木春雄、同佐藤義美の各証言、原告三津谷幸雄、同沢口正敏各本人尋問の結果を総合すると、被告戸田建設は訴外藤田工業とともに訴外公団から高速自動車国道東北縦貫自動車道川口・青森線における総延長一一一五メートルに及ぶ岩槻南インターチエンジ工事を請負い、そのうちの一部である本件事故現場を含む工区については被告戸田建設が担当することとなつたが、同被告は右請負工事中道路舗装工事一切を被告戸田道路に下請させ、更に同被告は被告林土建に右舗装工事を下請させたこと(右被告ら間の各請負の事実は当事者間に争いがない。)、被告戸田道路と被告林土建との間の請負契約は、一応労務供給契約となつていて、所要の資材は被告戸田道路において提供する約であつたが、請負金額は面積当りの単価によつて決定され、工事の施行自体は一切被告林土建に委ねられていたこと、そして本件工事における保安に関しては、訴外公団と被告戸田建設との間で特記仕様書により交通整理員の常駐、工事標識板、警戒標識ならびにバリケード等の設置等を同被告において行なうことと定められ、同約定にもとづき被告戸田建設は本件工区に作業所を設置して、所長、工事主任、次席、事務担当各一名、技術担当六名の合計一〇名を配置するとともに約三〇〇万円の費用をかけて工事区間であることを示す「工事中」なる工事標示板や「危険」「徐行」等と表示した警戒標識を本件工事区間の道路側方各所に、また工事箇所の一部には防護柵をそれぞれ設置した外、バリケード等保安のための機材を多数用意して下請施工業者の要請に応じて常時貸し出す態勢をとり、工事期間中は毎日午後一時ないし三時から、被告戸田道路を含む下請先の工事責任者との間で工事打合わせや安全に対する協議会を行ない、通行車両に対する注意、作業員のヘルメツト着用等の注意を行なうとともに、工事区間内を巡回して危険の有無について全般的な注意をしていたこと、また被告戸田道路としては、本件工事現場に作業員一名を常駐させるとともに、臨時に職員を派遣して戸田建設との安全会議で決められた事項を下請である被告林土建の作業員に伝達させ、また被告林土建の主な作業現場には立会つて作業の進行状況を監視するとともに安全に対する注意を与えていたこと、さらに被告林土建は、舗装工事と一般土木工事の請負を主たる業務としているところから、毎月原告三津谷を含めた社員や工事責任者を集めて安全会議を行ない、安全についての注意事項や講義をして安全教育を行なつていたこと、本件事故は、原告三津谷が責任者となつてそれまで三日間をかけて施工していた舗装工事が当日午後四時ころ終了したところ、被告戸田道路の係員である訴外田中から同原告に対し、沈下盤の穴の埋戻しをするよう指示があり、原告三津谷としては、予定外の作業であるが右作業箇所が約五〇メートル間隔に所在する約九か所で、概ね一か所二、三分で終了する簡単な工事であるところから、自己を含め作業員二名、誘導員一名計三名で足りると考え、指揮している作業員の中から原告沢口と訴外石田馨一とを選び、右の者らとともに資材を積載したダンプカーを運転して作業現場に赴き、右ダンプカーを道路の下り第一車線の中央附近に進行方向に向けて停車させ、右訴外石田をしてその後方五、六メートル附近で後方から進行してくる車両の誘導をするよう命じたうえ、原告ら両名で穴埋め作業を行い、三か所は無事作業を終了し、四か所目を作業中に発生したもので、少くとも本件事故時には訴外石田は車両の誘導を行なつておらず、バリケードその他通行車両に対する保安措置を講じていなかつたことがそれぞれ認められ、他に右認定を覆えす証拠はない。

右認定事実ならびに前記二において認定した各事実を総合すると、本件事故は被告白川の前方不確認の過失が大きいとは言え、原告三津谷においても、本件埋戻し作業をするに際し、適切な地点に誘導員を置くか、もしくはバリケードその他適切な予告標識を設置するなどの保安措置を講じたうえ作業をなすべきで、これを怠つたことも本件事故の一因を成しているものと認めざるを得ない。

原告らは、被告白川の本件事故時の運転がいわば「めくら運転」であるから、保安措置を講じたとしても事故の発生を防止できなかつた旨主張するが、前記二の認定事実からすると、事故地点から相当手前の地点附近にそれら保安措置をとるならば事故の発生に防止できたものと考えられるから、右主張は採用できない。

しかしながら、前記認定事実によると、本件埋戻し作業は、原告三津谷が責任者となり同原告の指揮のもとに行われ、原告沢口はその指揮に従つて作業に従事したにすぎないことが明らかであるから、右保安措置を怠つたことによる責任は原告三津谷が負うべきもので、原告沢口にその責任を負わせることはできないものというべきである。

なお、被告福島熔材、同白川は、被告戸田建設、同戸田道路、同林土建にも過失が存在する旨主張するが、右被告らの関係はそれぞれ請負契約にもとづくもので、被告戸田道路と被告林土建との間の契約が一応労務契約となつてはいるが、請負金額は面積当りの単価によつて決定せられ、実際の工事の施行も被告林土建に委ねられていて、実態は通常の請負契約と大差はなく、被告戸田建設、同戸田道路としても、工事標示板等を設置するとともに、バリケード等の器材を用意し、要請があれば貸与する態勢をとつていたことは前記認定のとおりであるから、被告戸田建設、同戸田道路としては、本件埋戻し工事を指示する際に、保安措置について具体的に指示しなかつたとしても、同被告らに過失ありとすることはできず、また被告林土建としても、本件埋戻し工事が当日の予定外の工事で、工事自体も短時間に終了する軽作業であるうえ、原告三津谷を責任者として赴かせている以上同原告の過失に基づき民法七一五条の責任を負うことは別として、同被告自身に過失ありとすることはできないものといわざるを得ない。

以上の次第で、結局本件においては原告三津谷の損害についてのみ同原告自身の過失を斟酌できるにすぎず、しかして右過失割合は約二割とみるのが相当である。

しかして、同原告が後遺障害に対する労災保険年金として既に合計金五九五万四八七八円の支払を受けたことは同原告の自陳するところであるから、前記四1(一)の逸失利益損害金一七九〇万三九一一円から右金員を控除すると、その残額は金一一九四万九〇三三円となる。

そして、前記過失を斟酌すると、原告三津谷が被告福島熔材及び被告白川に対し賠償を求め得べき額は、逸失利益損害として金九五五万九二二六円、慰藉料として金四一六万が相当である。

六  損害の填補

原告三津谷が、被告福島熔材から見舞金として金三万円、休業補償内金として金四〇万円の支払を受け、また自賠責保険の後遺症補償金として金三四三万円、労災保険による休業補償金として金五六万三〇四三円を受領したことは当事者間に争いがなく、同原告の前記五末尾の損害額から右金員を控除すると、その残額は金九二九万六一八三円となる。

なお被告らは、原告三津谷が将来給付を受けるべき労災保険による補償年金二八九五万二四〇三円も控除すべきであると主張するが、右については現実に支給を受けていない以上控除すべきではないと解するので、右主張は採用できない。

また、同原告が被告福島熔材から治療費として金一〇七万四四七〇円、雑費として金一〇〇〇円合計一〇七万五四七〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、同原告において他にも損害が存在する旨の主張立証をしない以上、本訴請求にかかる損害及び右治療費、雑費損害が本件事故による全損害とみるべきであるから、右支払金のうち前記過失相殺により減殺されるべき約二割相当の金二一万五〇〇〇円を前記金九二九万六一八六円から更に控除すべきであり、これを控除すると、その残額は金九〇八万一一八三円となる。

また、原告沢口が被告福島熔材から見舞金として金三万円、休業補償として金四〇万円の支払を受けた外、自賠責保険の後遺症補償金として金五二万円、労災保険による休業補償金として金九〇万五七二円を受領したことは当事者間に争いがないから、同原告の前記四2の(一)、(二)の損害額から右各金員を控除すると、その残額は金一一六万四六〇五円となる。

七  弁護士費用

原告三津谷幸雄、同沢口正敏各本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によると、原告らは本件訴訟の提起、追行を右原告訴訟代理人に委任し、それぞれ報酬の支払を約していることが認められるが、本件事案の性質、審理の経過、認容額にかんがみると、被告福島熔材、同白川に対して賠償を求め得る弁護士費用は原告三津谷が金一〇〇万円、原告沢口が金三〇万円と認めるのが相当である。

八  したがつて、被告らに対し、原告三津谷が賠償を求め得べき額は合計金一〇〇八万一一八三円、原告沢口が求め得べき額は合計金一四六万四六〇五円となる。

(丙事件)

一  被告福島熔材主張の日時場所において主張の事故が発生したことは全当事者間に争いがなく、原告三津谷、同沢口が右被告主張の傷害を受けたことは、成立に争いのない甲第二号証の一ないし三、第五号証の一ないし三及び原告三津谷幸雄、同沢口正敏の各本人尋問の結果によつて認めることができる(右受傷の事実については被告福島熔材と被告林土建との間では争いがない。)。

二  右事故につき、被告福島熔材が損害賠償責任を負うことは全当事者間に争いがない。

被告福島熔材は、被告戸田建設、被告戸田道路、同林土建も共同不法行為責任を負う旨主張するが、前記甲、乙事件五摘示と同様に本件当事者間でもそれぞれ成立に争いがなく、もしくは証言、原告三津谷幸雄本人尋問の結果または弁論の全趣旨によつて成立の認められる各掲記の書証及び証言ならびに本人尋問の結果を総合すると、右五において判示したとおり、本件事故は被告白川と原告三津谷の過失とが競合して発生したもので、被告戸田建設、同戸田道路及び被告林土建自身については過失相殺における過失はもとより不法行為における責任原因としての過失もないことが認められるから、原告三津谷に対しては被告福島熔材のみが、また原告沢口に対しては、被告林土建が原告三津谷の使用者として(同事実は被告福島熔材と被告林土建との間に争いがない。)、被告福島熔材とともにそれぞれ損害賠償責任を負うべきものというべきである。

したがつて、被告福島熔材が原告三津谷に対し損害賠償金を支払つたとして、その求償を求める本訴請求部分は爾余の点について判断するまでもなく、その理由がないものといわなければならないが、原告沢口に対する関係では、被告林土建との間に共同不法行為関係が成立するか否かに関係なく、求償関係を生ずる余地があるので更に判断を進める。

三  被告福島熔材が原告沢口に対し、本件事故による損害賠償として金一一六万九六七〇円を支払い、うち金五〇万円については自賠責保険から支払を受けたことは被告福島熔材と被告林土建との間に争いがない。

しかしながら、右のような場合、不法行為責任の特質からして求償は両者の過失割合によつて決定される自己の負担部分を超えて支払つた場合に右超えた部分のみについてなし得るものと解するのが相当であるところ、本件においては被告福島熔材において自己の負担部分を超えて支払つた旨の主張立証がないのみならず、前記二の事実関係によると、被告福島熔材と被告林土建の過失割合は八対二とみるのが相当であるところ、成立に争いのない乙第四六号証、原告沢口正敏本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第六、第七号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第五号証の一、第九号証及び右本人尋問の結果を総合すると、前記甲、乙事件四2の(一)、(二)において判示したとおり、原告沢口の後遺症障害による逸失利益損害として金八六万五一七七円、また慰藉料損害として金二一五万円がそれぞれ認められ、右損害額合計金三〇一万五一七七円から同原告の受領した自賠責保険金及び労災保険金を控除したとしても、被告福島熔材がその請求の基礎とする出捐額金六六万九六七〇円が右残額の八割を超えないことは計数上明らかであるから、同被告は被告林土建に対し、求償できないものというべきである。

(結論)

以上の次第で、原告三津谷、同沢口の本訴請求については、被告福島熔材、同白川それぞれに対して、原告三津谷が金一〇〇八万一一八三円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年四月八日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告沢口が金一四六万四六〇五円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四九年一月一七日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを正当として認容し、その余は理由がないから失当としてこれを棄却することとし、被告福島熔材の被告戸田建設、同戸田道路、同林土建に対する本訴請求はすべて理由がないので失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九三条、九二条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川昭二郎 片桐春一 金子順一)

第一計算書

〈省略〉

第二計算書

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例